故郷である岩内で描き続けた画家・木田金次郎(1893-1962)。岩内を拠点として制作を重ねたその生涯は、北海道美術史の中でも重要な位置を占めています。
昨年開館15周年を迎えた木田金次郎美術館では、木田の画業の研究を深めて参りましたが、ここ数年で浮かび上がってきた大きなテーマに「木田金次郎の交流圏」があります。これらの研究から、木田が美術にとどまらず、多くの領域に関わる人物と交流を重ねていた姿が導かれてきました。
今回は、建築家・田上義也(1899-1991)との関わりを紹介いたします。田上はアメリカの建築家・フランク・ロイド・ライトに師事し、日本におけるライトの代表作である帝国ホテル(1923年竣工)の建築に携わりました。その後北海道に渡り、橋浦泰雄と旅した道東の情景に強く惹かれ、北海道での建築を志します。
田上は大正末期の渡道直後から、橋浦を通じて岩内の木田と交流します。木田を中心とした有島武郎顕彰会「白水会」が田上を岩内に迎えるなど、岩内との深い関わりが生まれています。
昭和初期から札幌や小樽で住宅建築などの活動を重ねた田上は、戦後、北海道銀行初代頭取の島本融との出会いにより転機を迎えます。戦後は北海道銀行の本支店やユースホステルの建築をはじめ、北海道の建築界に大きな足跡を築きました。また道内初のオーケストラを組織するなど、分野を超えた活躍は、今なお私たちの生活に深く息づいています。
この展覧会では、大正末期から続く木田と田上の交流の模様をはじめ、橋浦泰雄や島本融など、「木田金次郎の交流圏」に連なる田上の魅力的な人物像を、建築作品とともに紹介します。北海道に根ざした北方建築の種を遺した田上の姿を、同じく北海道に根ざした制作を行った木田と重ね合わせてご覧いただければ幸いです。