東京での学生生活を切り上げ、故郷岩内で労働に従事する運命を抱える青年木田と、自らの創作に苦悩しつつ、芸術と労働に悩む青年を見つめる有島。二人の人生を変える出会いを生んだ100年前の出会いにより生まれた芸術の姿は、今も読み継がれる「生れ出づる悩み」と、のこされた木田の絵画作品として、いまなお多くの人々に生きる希望を伝えています。
しかしながら、二人が交流した時期の木田作品は、ほとんど現存しておりません。これは木田は1954(昭和29)年に「岩内大火」に罹災していること、また、有島も、没後に発生した関東大震災(1923年)により東京の自宅が焼失したためで、交流時の資料を偲ぶのは困難な状況です。
そこで、本展では、木田をモデルとした有島の「生れ出づる悩み」と、のちに木田が有島との交流について記した文章を軸に、有島の示唆により画家として歩んだ木田の作品をたどることで、木田の画家としての歩みと、有島の存在の大きさについて、振り返る機会といたします。
二人が初めて出会った「上白石の有島邸」は、現在、北海道開拓の村(札幌市厚別区)に移築され、往時を偲ぶことができます。あわせて木田・有島それぞれが記した、100年前の希有な出会いについて、想いをはせていただければ幸いです。