平成19年度特別展示 木田金次郎の交流圏「橋浦泰雄―旅への導き」展を開催いたします。
木田金次郎(1893-1962)は、故郷岩内で描き続けた北海道を代表する画家のひとりです。
木田は大正時代、有島武郎(1878-1923)の小説『生れ出づる悩み』で描かれ、広く知られることになりますが、有島をはじめ、様々な分野の人たちと交流を重ねていたことが次第に明らかになってきました。 ここ数年、木田金次郎美術館では「木田金次郎の交流圏」をテーマに特別展示を開催いたしておりますが、今回は大正末期から木田と交流を重ねた日本画家の橋浦泰雄(1888-1979)との交流を紹介いたします。 鳥取出身の橋浦は、若き日には作家を目指していましたが、自ら「画工」と称して日本画を描き、兄が住んでいた札幌をたびたび訪れ、日本画の個展も開催するなど、北海道との関わりも深い人物です。また、有島武郎とも交流があり、有島の『惜しみなく愛は奪う』に重要な示唆を与えた人物として同書に名前が記されています。様々な顔を持つ橋浦ですが、特筆されるのは民俗学者としての姿でしょう。そのきっかけは、大正末期に橋浦が岩内を訪れた時、木田の漁師時代の見聞から、下北半島の尻屋村に「原始共産制」が残っているという話に、橋浦が関心を持ったことによります。 この話をきっかけに橋浦は柳田国男の門を叩き、民俗学者として全国各地の調査を重ねます。今回の展覧会では、橋浦が旅先から兄弟などに宛てた「絵たより」を中心に、有島武郎関連資料を交えながら、岩内をはじめとする大正末期の北海道内外の風景をご覧いただくとともに、橋浦の旅の軌跡と、このとき橋浦と旅をし、北海道で建築家となる決意をした田上義也(1899-1991)も含めた木田の周囲の人物との交流の様子を紹介します。貴重な大正期の「絵たより」を軸に、画家・木田金次郎、民俗学者・橋浦泰雄の旅立ちを、そして今日の私たちが出会いと人生に思いを馳せる機会となれば幸いです。