今から60年前、60歳の木田金次郎(1893-1962)は、周囲の尽力を得て、初めての大規模個展「木田金次郎個人展 第一回」を札幌・丸井今井百貨店で開催しました。1953(昭和28)年11月のことです。この個展で木田は、約40年の間に描きためた作品106点を出品しました。
当時、まだ北海道には美術館はありませんでした。道内最大の百貨店で開催されたこの展覧会の反響は大きく、それまで多くの人が木田に対して抱いていた、有島武郎の小説『生れ出づる悩み』の「主人公のモデル」というイメージから脱却させ、同時代に岩内で描き続ける画家として、その姿を広くアピールする機会となりました。
奇しくもこの翌年、木田は「岩内大火」(1954年9月26日)により、出品作品を含む多くの作品が焼失する悲運に見舞われます。「第一回個展」の成功を契機に、東京でも個展開催の機運が高まり、準備に取り掛かっていた矢先のことでした。
本展では、可能な限り、この「第一回個展」の再現を試みます。結果的に木田の生涯の大半を占める、岩内大火以前の作品群にあらためて注目することで、後に大きく展開する画業の礎を検証する機会となれば幸いです。